「過去と未来をつなぐライフヒストリー」と題して、私の半生を辿っています。
書くことや言葉との関わり、転職あれこれを書いていますが、「こんなヘンなところがあるんだ!」というのも面白がっていただければ幸いです。
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初めて正社員として採用されたものの、社員ひとりの会社で、たった2週間の引継ぎ。
コピー機は古いし、本棚はガタっと音を立てて、突然棚板が外れるし、経理も初めて、接客業も初めて。
毎日、社長さんが隣に座ってシ―――ン……とした中で仕事をする。
有線放送のBGMがかろうじて空気を中和してくれていました。
社長さんはイランの人でしたが、私よりも日本にいる時間が長く、日本語ペラペラ。
そんな方の会社なので、ちょいちょい貴重な体験をさせていただきました。
その最たるものが、小切手。
この会社、給料が小切手で支給されていたのです。
小切手って、見たことありますか?
昔はドラマとかマンガで、お金持ちが、横長の手帳のようなものにさらさらっと金額を書いて、ミシン目がついたページをピッと切り取り、「はい、これ」と相手に渡す。
渡された人は、書かれている金額の高さに驚く!(たいてい、百万以上の単位)……というシーンがよくあり、その手帳のようなものが小切手です。(今はあまりそういうシーンは見ないような気がしますが)
小切手は現金と同等扱いで、銀行へ持っていくと現金に換えてくれます。
後に就職した経営コンサル会社にいた時に、小切手でコンサル料を支払うクライアントさんもいました。
でも、小切手で給料を支払う会社は、当時でもそうそうなかったのではないかと思います。
海外では小切手で給料が支払われると聞いたことがあるので、おそらくその社長は当たり前のように小切手を使っていたのでしょう。
社員ひとりで、経理も担当していますから、社長から言われた枚数と金額の小切手を切るわけです。
「間違えてはいけない…!」とビビりながら数字のスタンプを押していました。
また、この“お給料”をもらったらもらったで緊張します。
普通は、
「今日は給料日だから、友達と飲みにいこう♪」
とか、
「ケーキでも買って帰ろうかな」
とか、
「あの服、欲しかったんだよねぇ。買っちゃおうかな!?」
とか、気持ちが上がるじゃないですか!
ところが、小切手で給料をいただくとどうなるか。
まず、その日には使えません。だって銀行の窓口に行かないと現金化できないんですから。
まして、その紙切れ一枚をなくしてしまえば、1ヶ月の給料がパーです。
1日仕事をして疲れた給料日、帰りはさらにドキドキしながら帰宅しました。
そうなんです。
まずは無事に帰宅すること!
それが大事!!
「カバンを取られたらどうしよう」
「スリにあったらどうしよう」
そんな心配をしながら帰っていました。
さらに、翌朝、出勤前に銀行に行きます。
幸い就業時間がゆっくり目で、銀行の窓口に寄ってから出勤することができました。
昼休みは全然時間がないので銀行に行けず、朝行けなければ現金がまた1日遠のくのです。
銀行に行って小切手を渡し、自分の口座にお金を入れてもらい、
「今月も無事、お給料をいただけた……」
と、ここでやっとほっとします。
ここでしかできなかった体験は、ほかにもありました……
(つづく)
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